精神の障害年金の等級判定ガイドラインについて 考慮すべき要素

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私が書きました
shiroki.sr

「働いていたら障害年金はもらえないのですか?」という疑問については、全般的な内容をこちらの記事で解説しました。

ただ、精神障害の審査では、他の障害と比べて就労状況をかなり細かく見る傾向にあります。他の障害と比べ解説すべきポイントが非常に多いため、記事を分けてここで解説していきます。

 

1.精神障害と就労状況

最初に、就労についての取り扱いを「精神の障害に係る等級判定ガイドライン」から抜粋します。

「労働に従事していることをもって直ちに日常生活能力が向上したものと捉えず、現に労働に従事している者については、その療養状況を考慮するとともに、仕事の種類、内容、就労状況、仕事場で受けている援助の内容、他の従業員との意思疎通の状況などを十分確認したうえで日常生活能力を判断する」

つまり頭ごなしに「働いているから年金を払わない」ではなく、その内容もしっかり考慮しましょう、と厚生労働省は言っているわけです。

実際に、精神障害の診断書には、他の障害にはない「現症時の就労状況」という項目があり、勤務先、雇用体系、勤続年数、仕事の頻度や給与、仕事の内容、仕事場での援助の状況や意思疎通の状況が細かく記載されます。

そのため「就労状況のどういう部分がどのように考慮されるか」を知ることは非常に重要になります。

2.精神障害・発達障害・知的障害に共通の「考慮すべき要素」「等級判定ガイドライン」

端的に言えば「障害があるため、職場で援助や配慮が必要である」という点を強調していくことが必要になります。

診断書の就労状況の欄には「仕事場での援助の状況や意思疎通の状況」という項目があります。

働くうえでどういう支障があり、職場でどう配慮を受けているかを主治医に伝えて、ここに記載してもらいます。

では、どのような種類の援助、配慮が審査にあたって重視されるのでしょうか。

精神の障害に係る等級判定ガイドライン」では「総合評価の際に考慮すべき要素の例」として考慮すべきポイントを例示しています。

この「考慮すべき要素」を踏まえた上で、ピンポイントで主治医に情報を伝え、診断書に書いてもらうというのが望ましい請求方法になります。

重視されるポイントは精神障害・発達障害・知的障害で少し異なるのですが、まずはすべてに共通する要素を紹介します。

 

考慮すべき要素具体例
労働に従事していることをもって、直ちに日常生活能力が向上したものと捉えず、現に労働に従事している者については、その療養状況を考慮するとともに、仕事の種類、内容、就労状況、仕事場で受けている援助の内容、他の従業員との意思疎通の状況などを十分確認したうえで日常生活能力を判断する。
援助や配慮が常態化した環境下では安定した就労ができている場合でも、その援助や配慮がない場合に予想される状態を考慮する。
相当程度の援助を受けて就労している場合は、それを考慮する。就労系障害福祉サービス(就労継続支援A型、就労継続支援B型)及び障害者雇用制度による就労については、1級または2級の可能性を検討する。              就労移行支援についても同様とする
障害者雇用制度を利用しない一般企業や自営・家業等で就労している場合でも、就労系障害福祉サービスや障害者雇用制度における支援と同程度の援助を受けて就労している場合、2級の可能性を検討する
就労の影響により、就労以外の場面での日常生活能力が著しく低下していることが客観的に確認できる場合は、就労の場面及び就労以外の場面の両方の状況を考慮する。
一般企業(障害者雇用制度による就労を除く)での就労の場合は、月収の状況だけでなく、就労の実態を総合的にみて判断する。

2-1.月収の状況について

実務上、最初に見るポイントがこの「月収」です。

精神障害での請求の場合は「月収がいくらか」は必ず参照されます。

職場の厚生年金に加入している場合、請求者の標準報酬月額と賞与額は年金機構に届出されていて、診断書にも「ひと月の給与」を記載する欄があります。

そして、症状が非常に重く、診断書も重く書かれていても、給料がある程度出ているから不支給というケースが珍しくありません。

では、いくらまでならセーフで、いくらからアウトなのか?というラインが気になると思います。

残念ながらこれについてははっきりしていません。

ほぼ同程度の障害状態でありながら、月収4万円の一般雇用(パート)で2級非該当とされた人もいれば、月収20万の障害者雇用で2級の年金を受給している人もいます。

一般雇用で月収20万フルタイムで働いていて3級も不支給になった人が、その後週に2日しか出勤できなくなったため、再請求したところ3級を受給したという例もあります。

ガイドラインでも「月収の状況だけでなく、就労の実態を総合的にみて判断する」とされています。

ですから、請求の際にはとにかく受けている援助や配慮、そして特殊な事情(休職中など)を全て盛り込んで主張していというのがポイントになります。

2-2.「相当程度の援助を受けて就労している場合」について

最も重要なのが「相当程度の援助を受けて就労している場合は、それを考慮する」という要素です。

就労系福祉サービス(A型、B型作業所)や障害者雇用、就労移行支援での就労が、この「相当程度の援助」に該当します

「障害者雇用」に〇がつくだけで、相当程度の援助を受けて就労している証明になるということです。

特にB型作業所は、対象者が「就労困難者、50歳以上、障害年金1級の受給者」となっており、重い障害を想定していることから、障害年金の請求にあたっては強いアピールになります。

では、もしそれらの制度を利用していない場合はどうなるでしょうか。

上の例示では「障害者雇用制度を利用しない一般企業や自営・家業等で就労している場合でも、就労系障害福祉サービスや障害者雇用制度における支援と同程度の援助を受けて就労している場合は、2級の可能性を検討する」としています。

つまり一般雇用でも、職場に障害をオープンにして、障害者雇用と同程度の援助を受けていことを証明できれば、2級の可能性があるという事です。

実務上、一般就労で精神障害2級を受給するのは非常に難しいですが、可能性はゼロではないということです。

“相当程度の援助”について

  • 障害福祉サービス(A型、B型作業所)または障害者雇用、就労移行支援等で就労している(1級または2級)                                                     
  • 一般就労だが、上記と同程度の援助を受けている(2級)

2-3.その他の考慮すべき事項

その他の「考慮すべき事項」について解説します。

一つは「就労の安定性」です。

特に精神障害の場合は、「安定して働けているかどうか」が見られます。

就労状況にも勤続年数を記載する欄がありますが、一般に、1年以上安定して働いている=日常生活能力が高いとみなされる傾向にあります。

ただし、安定して就労しているからと言って、本人の能力が高いとは限りません。「職場が非常に保護的な配慮をしているからこそ、安定して働けている」ということもあります。

また、在籍は長くても、勤務態度や勤怠などが非常に不安定だったり、休職と復職を繰り返しているような場合もあります。

その場合でも、何も言わなければ勤続年数だけを見られて「安定して働けているんだな」と思われてしまいますので、不安定であればその事実を、保護配慮を受けている場合もそれをしっかりと医師に伝え、診断書等に記載してもらう必要があります。

もう一つは、「就労以外の場面の日常生活能力」です。

就労に気力を使い切ってしまい、日常生活に支障が出てしまっている場合は、それも一つのアピールポイントになります。

ただし、「客観的に確認できる場合」となっています。自身の申立てだけではなく、診断書等に明記してもらう必要があるということです。

3.障害ごとの考慮すべき要素

請求する障害の種類によって、考慮される要素も少し変わります。

3-1.精神障害

考慮すべき要素具体的な内容例
安定した就労ができているか考慮する。1年を超えて就労を継続できていたとしても、その間における就労の頻度や就労を継続するために受けている援助や配慮の状況も踏まえ、就労の実態が不安定な場合は、それを考慮する。
発病後も継続雇用されている場合は、従前の就労状況を参照しつつ、現在の仕事の内容や仕事場での援助の有無などの状況を考慮する。
精神障害による出勤状況への影響(頻回の欠勤・早退・遅刻など)を考慮する。
仕事場での臨機応変な対応や意思疎通に困難な状況が見られる場合は、それを考慮する。

精神障害の場合、「安定した就労ができているか」「出勤状況」が重視されます。不安定であればそれがアピールポイントになります。

その他、臨機応変な対応や意思疎通が出来なくなっているという点も考慮すべき要素に該当します。

具体的には、以下のような要素を診断書に書いてもらいます。

・働く時間が短い(時短勤務、週に2、3日等)

・勤怠状態が悪い(欠勤、遅刻、早退が多い、休職を繰り返している)

・他の社員と同じように働けない(仕事内容が補助的、軽作業や簡単な作業に絞られている、同じ作業の繰り返し等)

・他の社員との意思疎通が出来ない(報告連絡相談ができない、対人トラブルがある、電話に出ることが出来ない、等)

・適切な配慮を受けている(休みや休憩の優遇、仕事の軽減、見守りを受けている等)

 

これらの要素がある場合は、主治医にしっかり伝え、診断書に記載してもらいます。

3-2.知的障害

考慮すべき要素具体的な内容例
仕事の内容が専ら単純かつ反復的な業務であれば、それを考慮する。一般企業で就労している場合(障害者雇用制度による就労を含む)でも、仕事の内容が保護的な環境下での専ら単純かつ反復的な業務であれば、2級の可能性を検討する。
仕事場での意思疎通の状況を考慮する。一般企業で就労している場合(障害者雇用制度による就労を含む)でも、他の従業員との意思疎通が困難で、かつ不適切な行動がみられることなどにより、常時の管理・指導が必要な場合は、2級の可能性を検討する。

知的障害の場合は「仕事の内容」が重視されます。

具体的には「仕事内容が単純かつ反復的かどうか」が大きなポイントになります。

毎日同じ通勤経路で、全く同じ単純作業を行っているが、いつもの電車が止まったり少し違う作業になると対応できない、というような場合は2級の可能性があります。

また、「時の管理・指導が必要か」という点も考慮されます。

誰かスタッフがついて見守りをしないと、仕事ができなかったり、持ち場を離れてしまったり、危険な行為をしてしまうような状況であれば、2級の可能性があります。

職場での意思疎通の有無も重要です。ジョブコーチとは話せるけど、他の社員とは全く話せない、指示を理解できない、指示にそぐわない行動をとってしまう等が重視されるポイントです。

これらの点をしっかりと医師に伝え、診断書に記載してもらうことが重要です。

3-3.発達障害

考慮すべき要素具体的な内容例
仕事の内容が専ら単純かつ反復的な業務であれば、それを考慮する。一般企業で就労している場合(障害者雇用制度による就労を含む)でも、仕事の内容が保護的な環境下での専ら単純かつ反復的な業務であれば、2級の可能性を検討する。
執着が強く、臨機応変な対応が困難である等により常時の管理・指導が必要な場合は、それを考慮する。一般企業で就労している場合(障害者雇用制度による就労を含む)でも、執着が強く、臨機応変な対応が困難であることなどにより、常時の管理・指導が必要な場合は、2級の可能性を検討する。
仕事場での意思疎通の状況を考慮する。一般企業で就労している場合(障害者雇用制度による就労を含む)でも、他の従業員との意思疎通が困難で、かつ不適切な行動がみられることなどにより、常時の管理・指導が必要な場合は、2級の可能性を検討する。

発達障害の場合は、知的障害の場合と似ています。

まず、仕事の内容が単純かつ反復的であること、常時の管理・指導が必要という点が重視されます。

その他、執着が強い事、臨機応変な対応が困難である事による支障も考慮されます。

こだわりが強いあまり、トラブルの元になったり、指示通り仕事が出来ない等、誰かがついていてカバーしなければいけない事情がある場合は、診断書に記載してもらう必要があります。

4.提出する資料

基本的には診断書の「就労状況」に詳しく記載してもらうことになりますが、その他の資料を提出することも可能です。

例えば長期休職の証拠として出勤簿を提出したり、給料が大幅に下げられている証拠として給料明細を提出するなどです。

実際に受けている細かい配慮や問題行動等を上司やジョブコーチなどから聞き取り、申立書として提出するという方法もあります。

5.まとめ

この記事では、精神障害による障害年金の請求について、どういう点が重視されるかをまとめました。

就労している場合、考慮すべき要素に該当しているかどうかは非常に重要です。

しかし、考慮すべき要素に該当していても、それを保険者に伝えなければ意味がありません。

この記事を一人でも多くの人に役立てていただければ幸いです。

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